才能という言葉は中々に使い勝手が難しい。

　以前に、彼女には才能があると師父は言った。
　今では、彼女には才能があったと嘗ての師父は言う。

『葬書』に曰く「気乗風則散 界水則止 古人聚之使不散 行之使有止」と謂う。今風にいえば「気なんて風吹きゃ2秒で溶けてXYZってもんだが、CDな連中は上手いことドミネートしてたっていうぜ？　ニューロ！」といったところだ。
　彼女には生まれつき、風に乗った気を「上手いこと」操る才能があった。
　中華街のレッドエリアに大陸系の三世として生まれた愛らしい顔立ちの一人の少女が、「何子龍」という男子のような名前を嫌ってヒメナ・ホーを名乗り始めたのはまだ五歳になったばかりの頃だったが、その才能を中華街の顔役に見出され、名のある道士の下にその身を預けられたのも、またその頃だった。
　気を孕んだ風は強く、対する相手に種々の影響を及ぼす。彼女が起こす風は陰陽問わず力を持ち、それは確かに天賦の才を要する術の力だった。

　無かったのは、その才を伸ばす才能の方だ。
　口の悪い師に「栴檀の双葉程度には芳しい」などと評される彼女の術士としての才能は、言ってしまえばその程度であった。
　程々の力の陽風と陰風を起こし、風を纏わせるその技は、いわば技術の基礎の基礎である。彼女がその力を操れることに気づいたその時から、彼女の技は全く成長をしていない。

　しかし、彼女にはその拙い技を上手く利用する才能があった。
　彼女は伝統的な棍棒術の技を電磁警棒に応用し、一つの格闘術として昇華させた。更にはその連撃に陰風を纏わせ、敵の姿勢を崩す一助として活用することにより、独自の戦闘スタイルを確立させたのである。
　その技は彼女をストリートで一角の武闘派として知らしめるのに十分なものとなった。

　この災厄の街を上手く生きる才能は無かった。組織の類に属すことなく、親も亡くして天涯孤独。魅惑的に育ったその身を売るでもなく、自由気ままに荒事一本で生きてきた。
　この災厄の街を行き抜く才能はあった。色んな意味で「独り身」の彼女が、このＮ◎ＶＡで三十路を過ぎても平気な顔で生きていられるとは彼女自身も思ってはいなかった。

　

　30を過ぎてから吸い始めたコヒバに安いライターで火を付ける。
　煙草を楽しめる才能があることに気づいたのは最近だ。
　才能があるというのは何かと重要なことであるし、どうでもいいことでもある。
「気乗風則散……」
　意味も理解できぬままに覚えた言葉をそっと呟く。
　一陣の陽風が紫煙を散らし、街を流れた。

　

　

　少し固めの髪質の黒髪をベリーショートに。艶のある褐色がかった肌は生まれつきで、漢民族以外の血を幾らか残しているらしいことが見て取れる。
　肉感的でグラマラスな体型ながら、うっすらと残した脂肪の下には柔軟性を持った自然な筋肉が張りを保ったまま維持されている。
　とうとう化粧の乗りが悪くなってきたことと、近所の野良猫型ペットドロイドがやたら懐いてくるのが最近の悩み――と、この街で好き勝手に生きていて、その程度の煩悶しかないのが彼女の性格を端的に表している。
　口にはいつもコヒバを咥えているが、仕事の時以外には火を付けない自分ルール。

▼能力値上昇
▼技能修得 15
▼常備化