魔が差した、という言葉がある。
　刑事なんて仕事をやっていると、そんな言い訳じみた言葉も、さもありなん、と思えてくる。
　ひき逃げ。横領。窃盗。傷害致死。自殺。
　つい。ふと。思わず。気がついたら。
　ほんの一瞬の悪意に敗れ、坂を転げ落ちた人間。
　そんな、魔が差した連中を、私はもう何十人と見てきた。

　私も、その一人なのかもしれない。
　もともと大儀を抱いてＳＳＳに入ったわけでもなかったが、入った時から悪徳警官だったわけでもない。魔が差した最初のきっかけは、ガンジャやってたガキを見逃したあの時かな、何て思ったりもする。
　あの時、私の答えが少し違っていたら――こんなことには、なってなかったのかもしれない。



　魔が差した人間というのは、後悔をするものだ。
　一時の激情に流されて、本来のあるべき自分に反するからこそ、「魔」が差した、何て自分以外の何かを主語にしなきゃならなくなる。

　どういうわけか、私は後悔なんぞしていない。
　クスリをキめているのがバレて、ＳＳＳをクビに――それでも表向きは自主退職なあたり、中々イヌらしくって良い――なった今でも、後悔なんぞからっきしである。
　だってクスリ、キモチイイし。
　特に、この最近裏でちょっと話題になってる“ブースター”ってのは凄い。なんかテンションとか超ハイになって、心臓がヤバイくらい脈打って、それでも頭はクールに冷えてて。マジこれニューロ、すげーニューロ。
　あの時、ガキからちょっと分けてもらったガンジャなんかよりずっとイケる。

　あの時、魔が差してなかったら、私は一生こんなクスリの味、知らなかったんだろーなぁ。あぁ、魔が差して良かった。

　あれ、もうクスリ残ってない。
　しょうがない、ちょっと弾ばら撒いて、お金稼いできましょうか。

　

　元ＳＳＳの巡査部長。押収したドラッグを度々使用していたことが上層部にバレ、免職。とはいえ、警察としての体裁を守るため自主退職という形を取っており、退職金まで支払われてたりする。
　その後もドラッグから抜け出せず（というか抜け出す気もサラサラなく）順当に落ちぶれていく。悪徳警官時代からのコネでドラッグをキめ、カブトワリの真似事で口に糊する日々。
　ブースターのようなヤバイ代物の上客兼、金やクスリで簡単になびく何でも屋として、ストリートではそれなりに重宝されている。

　

　薄く脱色した髪は、肩ほどまで伸ばしてパーマをあてている。目鼻立ちがはっきりとしたまずまずの美人だが、薄い化粧では目の下のクマが目立つ。あと、歯を全部人工物に取り替えていたりする。

▼能力値上昇
▼技能修得
▼常備化