「酷い有様だな。辺り一面真っ赤じゃないか。」 
　路地裏に転がる死体の山と咽ぶようなドス黒い香りに包まれた空間で、無精髭の男、カーロスが帽子を目深に被りなおした。地獄絵図のような風景が広がる中、地面にぶちまけられた真紅の液体がまるでスライムの様なけばけばしい緑色に変わって行く。 
「おいおい、たちの悪い冗談はよしてくれ。」 
　苦々しげな顔で肩を竦めながら言った男の横に、極彩色の光を纏った人型のホロが現れた。目まぐるしく体の色を変え続けながら、“虹色のマリー”は飄々とした黄色い声で語りかける。 
「あら、人の血が緑色なんて、火星じゃ日常茶飯事じゃないのかしら、バディ？」 
「固定観念に囚われすぎさ、セニョリータ。」 
「人の観念を弄くるこの私が“固定観念に囚われすぎ”なんて言われるとは思って居なかったわ。」 
　四方八方から聞こえ続ける鉛色の銃声をＢＧＭに繰り広げられる、軽口の叩きあい。しかし銃声は数を増す一方で、そんな軽口も叩いていられなくなる。
「チッ、数が多いな。こいつぁちょっと不味いぜ。」 
「何のために私が居ると思っているのかしら、バディ。“色気”の無い奴らなんか私の相手じゃないわ。」 
　瞬間、黒服達が気が触れたかの様に叫び声を上げ始めた。あらぬ方向へ逸れる弾道。周囲が灰色の煙に覆われる。 
「ヒュー。どんな手品を使ったんだい、セニョリータ？」 
「黒ばっかりでユーモラスに欠ける彼らの世界をカラフルに彩ってあげたのよ。視覚ばかりに頼っているヒトは色という概念（クオリア）に囚われているわ。だからその認識を弄ってあげると簡単に壊れちゃうの。彼らは目まぐるしく移り変わる虹色の世界に閉じ込められて周りを認識する事すら出来無くなってるわ。」 
　黒服を赤色に変えながら、カーロスは肩を竦める。 
「考えるだけで恐ろしい世界だな。」 
「カラフルなのは嫌い？」 
「―――色には、良い思い出が無いんでね。」 
　漆黒の奥より姿を現す、儀礼服を身に纏った男。真教浄化派能天使。無色の相手を中断し、銃を構えなおすカーロス。 
「奴も“色付き”さ、セニョリータ。」 
「嫌いな色なら貴方の色に染め上げてしまいなさいな、バディ。貴方と私なら、それが出来るはずよ。」 



=====†===== 

「貴方は青い空を見た事がある？」

　生まれてからずっと、色という物を認識できない白黒の電脳部屋で長い間モノクロームの情報だけを見続けさせられた少女。そんな人間がある日突然カラフルな世界を目にした時どうなるか、という思考実験だったのだが、結局、色というものへの“認識の仕組み”を理解し、操れる様にまでなってしまった。

　彼女自身は色を認識できない。色どころか、あらゆる感覚を“感じていない”。

　彼女にとって、感覚とは“色を認識している”という事実を知っているだけ。我々が見ているような本当の意味でのカラフルな世界は彼女の目には映っていない。
　今も彼女はモノクロームの部屋から外には出ず、ただ電脳意識体として、虹色を纏った姿で現れる。自分が生きて居るのか、それとも生きたフリをしているだけのゾンビなのか、という疑問に悩み続けたまま……。

▼能力値上昇
▼技能修得
▼常備化