Gossipy Records
　そんなウェブコンプレックスの存在が知られたのは、ごく最近のことだ。
　アイコンは、趣味のいい落ち着いた真紅で装丁された重厚な本。
　世界各国のゴシップが記載されていると言う、その第一項にはこんな記事が載っている。

「――Gossipy Recordsのアイコンのデザインは、赤くてスタイリッシュな記録帖＝アカ・シック・レコードから来ているらしい」

　……そんな、使い古された自己言及的ジョークから始まる一連の記事は、ヤオヨロズの隅のタブロイドで見かけたような、馬鹿馬鹿しいゴシップに溢れている。ニューロエイジに於いて――いや、それ以前から多くある、個人の面白ニュースサイトと言った趣だ。
　Gossipy Recordsを見つけるのは、そう難しいことでもない。銀の目のような優秀な検索機能がなくとも、たとえばテラウェアのデフォルトで使用されている無料の検索サービスであっても、DAKに一言世辞でも言えば、２秒と経たずにトップに持ってきてくれる。

　だが、このGossipy Recordsには一つの「謎」がある。
　日々更新されるGossipy Recordsのゴシップ記事の山の一番奥には、第一項と同じように、常に一つの自己言及ゴシップが載っている。曰く。

「Gossipy Recordsには誰でも来れるし、Gossipy Recordsからは誰でも帰れる。ただ、Gossipy Recordsがどこにあるのかは、誰も知らないらしい」

　――Gossipy Recordsを日常的に訪れる人間は、いつも一々検索サービスのDAKにお世辞を言うのに飽きてしまう。アドレスブックに登録しようにも、このGossipy Recordsは、辿り着く度にアドレスが変わるのだ。
　一流のニューロたちの中には、このウェブコンプレックスの「謎」を解こうと、日夜寝食を忘れて没頭する者も少なくない。その中には少なからずAIたちも居たのだが、ニューロンの申し子である彼らでさえも、この最後のゴシップは解けていない。

　

　さて、そんな一流のニューロたちを尻目に、“超”一流のニューロたちの間では、このウェブコンプレックスは非常に興味深いWebの落とし子として知られている。

　実のところ、Gossipy Recordsは比喩でなく、正に生きているのである。更に言えば、Gossipy Recordsは動物なのだ。だから、居場所を変えるのは当然、Gossipy Recordsが生きて動いているからという、それだけのことに過ぎない。その活動範囲はWeb上に留まらず、時に現実世界に具現することすらある。
　Gossipy Recordsは魔器の一族である。誕生は電脳聖母事件よりも前――どころか、災厄以前にまで遡る。定義の仕方によってはエルダー（永生者）にさえ含まれてしまう存在だ。元はどこにでもあるウェブサイトだったものが、何の拍子か意思を持ち、魂を持ち、生きたアヤカシとして動き出したのだ。
　0と1との二進数のみでしか世界を見れないニューロやAIたちでは、Gossipy Recordsの本質は永遠につかめない。電子の奔流の有無だけを図る二進数の先、0と1の狭間に在るアレフ１の数を認識できる、Webに生まれた異質の意思。感性と感情を理屈でなく、生粋として抱える魂。それがGossipy Recordsという生命体である。



　Gossipy Recordsのキーはトーキーである。
　自身がそもそもニュースサイトとして生まれたことも理由の一つではあるが、今は単純に趣味としてゴシップ記事を収集、公開している。Ｎ◎ＶＡスポ辺りと取引し、金やらネタやらを貰って動くこともしばしば。DAKから顔を出すだけでなく、一目で人形とわかる旧式ドロイドをヴィジョナリーで操作してコミュニケーションを取ることもある。
　なお、外見的特徴の欄に書かれたデータは、件の旧式ドロイドのものである。

　飄々としている反面、割合根は真面目なところもある。ほどほどの正義感、それなりの利己心、喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、食欲、性欲、睡眠欲――要は、何もかも人並みということだ。

　呼び名？　そうだな――君なら、“Gossipy Records”ってタイトルのサイトを、何て呼ぶ？　

▼能力値上昇
▼技能修得 10
▼常備化