「おー？こっだら辺鄙な場所で何してっだー？」

房総幹線道路から歩いてしばらく。荒涼とした大地の中で、隠れるようにその施設はある。
館山農業試験場。貴重極まりない“天然モノ”が育っているというのにロクなセキュリティもなく
それでいて何故か人が近寄らないという奇怪な場所である。
彼はそんな施設の所長なぞをやっており、日夜種をこねくり回したりそこらへんに植えて育てたり
出来たモノを各種企業や政府に渡したりして暮らしている。
ちなみに、半数は耐寒植物の試験という真っ当なモノだが
残りの半数には“真空で生存出来る”だの“放射線への耐性が強い”だのといった
まるで宇宙空間で栽培するかのようなトンチキな目標が定められている。

実にカントリーな性格であり、迷い込んだ人でもおおらかな対応を忘れない。
部下にもまるで家族のような扱いをするので信頼を寄せられているが
それ故に、何故このような男がこんなポストについているのか甚だ疑問ではある。

「待つだァー！オラさ畑を荒らすなァー！」

カントリーであるという事はワイルドという事でもある。
いつもはにこやかに振舞う彼でも、自らの敷地を荒らす者には容赦をしない。
セキュリティの甘さから侵入者は絶えないが、そのことごとくが駆逐されているという実績があるのだ。
ある者は読むだけで嫌になるほどの罪状と共にイヌへ突き出され
またある者はその後の人生を一変させる程のトラウマを植え付けられ
挙句の果てには、ミンチにされて肥料となった者も多数存在しているという。
そう、農家を怒らせるというのは相当な覚悟が必要なのだ。
爆走するトラクターに轢かれたり、職員の用意するトラップに引っかかる気のない者は
こんな物騒な場所の事なんて忘れて早々に立ち去るのが賢明だ。

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