「お前では、我が字の向こうに希望を見出す事は出来ぬ。消えろ」

　十数年前“希望”の聖名を聖母より賜った聖母殿きっての英雄。
　しかし、現在の彼を示す数多の二つ名に、嘗ての聖名の面影は微塵も残っていない。
　曰く“聖母殿最大の汚点”“忌むべき聖剣”“絶望”――。

　とあるアヤカシの討伐任務に赴いた彼は、標的を討ち果したものの、その身に瘴気の心臓を打ち込まれ、アヤカシと化す呪いを受けた。
　呪いの成就を何としても防ぐべく、彼はその場で自らの首を断ち切って自害。
　――だが、その時にはすでに手遅れだった。
　瘴気の心臓に蝕まれた彼の肉体は、首を落としても果てる事なく――いや、その瞬間に完全な死者の一族として再生した。

　この事態を重く見た聖母殿は、絶滅騎士団の一部隊をただちに派遣。
　不世出の英雄がアヤカシ化したと言う事実を闇に葬ろうとした。
　しかし――派遣された絶滅騎士団は、一人残らず殺害されたばかりか、彼の眷属として再生されたのである。
　彼を筆頭に、屈強な騎士で構成された亡者の群れはその後完全に行方を晦ませる。
　浄化派決起直前に起きたこの惨事は、聖母殿の戦力を少なからず削り取った。
　この事件さえなければ、あの戦の結末は違っていたと呟く古株も少なくない。
　
　彼等が行方を晦ませたのとほぼ同時期に、退魔業を含むあらゆる戦争を引き受ける傭兵団の存在が闇の世界で囁かれるようになる。
　彼等は異能者も含む屈強な兵で構成されており、死をまるで恐れぬかのような凄まじい戦いぶりで戦場に破壊と殺戮、そして絶望を齎すのだという。
　それが、希望と呼ばれた男と共に消えた騎士達と同じ存在なのかは定かではない。

▼イラスト
▽いぬやさんより！多謝！
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