「ぼくは深淵を覗き込んだ。――そして深淵に全てを落としてきたんだ」
――そう言って、彼女は透明に微笑んだ。

「かつてのぼくを誇ることは出来るんでしょう。けれど、今のぼくをどうやって誇れってんです？」
――そう言って、彼女は透明に微笑んだ。



[ci・pher]

━━ n. 零 （zero）; つまらぬ人［物］; アラビア数字; 暗号（文）; 暗号を解くかぎ.
 in cipher　暗号で.
━━ v. 計算する; 暗号で書く




『ＣＣ』と彼女は名乗る。
それは無論本名ではなく、イニシャルもない。愛称でもない。

数年ほど前、天才的な風使いとして名を馳せた少女がいた。あらゆる魔術に精通し、もう少しで世界の誰しもが注目するような魔術師になるであろうと期待され、本人もよくそれに応えていた。
人望もあり、才能もある――そんな、輝かしい彼女の人生はしかし、
ある時を境にまるで騙し絵のようにその姿を変えた。

それはまさに善意だった。
ある一人の子供を救うため、全力を尽くした。あらゆる知識、すべての力を注ぎ込み、――高位の治癒術士すらも見限ったその子を救った。

代償は彼女の全てだった。

その高み――時に根源とも始原とも呼ばれる高みに一度上り詰めた彼女は、全ての力をその混沌に飲み込まれた。
風を、
魔術を、
――そして自分自身を。

残されたのは、そして有り余る魔術知識による魔術の構造解析――そして、

根源にて垣間見た、“全て無為である”という定義に由来した――それらの無効化。

魔術師の禁忌。
魔術無効論 -Cipher Cord- だった。


「それはぼくの昔の名前？　……そう。けれど多分、すぐに忘れる。ぼくは自分に関することを、何一つとして得ることは出来なくなったから」

▼能力値上昇
（０）
▼技能修得
（４５＋４５）
▼常備化
（３０）