「あー、悪い。今日バイトなんだ、また今度誘ってくれよ。」

「使うしかない、か………いいさ、さっさと終わらせれば何の問題も無い。」

　上坂真志は目立たない生徒だ。
　勉強はそこそこ、運動神経もそれなり、人付き合いも適度にこなす。
　家庭環境だってそう悪くはなく、唯一目立つ特徴と言えば、自立心が強いのか適度にバイトをして生活費を稼ぎつつ一人暮らしをしている事だろうか。
　上にも下にも飛び抜けていないごく普通の少年、それが彼に対する周囲の評価だ。

　しかし、彼には『ごく普通の少年』とは言い難い秘密がある。
　彼は幼い頃から、呼吸をするように自然に時間を操る事が出来た。
　そして、幸いと言うべきか――それが異常な事なのだと察知する知恵も兼ね備えていた彼は、人前では出切る限り力を使う事なく過ごしてきた。
　人付き合いも上辺だけ、踏み込みすぎても踏み込まれすぎても、自分の異常さを気取られる恐れがあるからだ。
　それは家族も同様、離れて暮らすのもそれが理由である。

　今の所は、それで特に問題も起こっていない。
　だが、これからも大丈夫とは限らない事は、彼自身が一番よく理解している。
　だから、彼はもう覚悟を決めている。
　自分の異常さが他人を巻き込むような事になる前に、人知れず姿を消す覚悟を。
　孤独な決意を胸に抱いたまま、彼は今日も全てを偽って日常を生きる。
　それが、何よりも大切な時間なのだと噛み締めながら。

　名前の読みは『こうさか・しんじ』。

▼能力値上昇 ▼技能修得[120]+90 ▼常備化 +20